『とにかくシュートを打て』
私が幼少時代に監督やコーチによく言われた言葉です。こういうセリフの出てくるタイミングは…ピリオド間のシュート数のアナウンスで相手よりも少ない、もしくはそもそものシュート数が少ない時によく言われたものです。
シュートは打たなければゴールにはならない。「宝くじは買わなきゃ当たらない」と同じ理屈です。
一見、正論のように見えますが…例えばキーパーの正面へのセーブされやすい弱いシュート、味方フォローが来ていない状態で自分の体勢も整っていないのにやみくもなシュート、などの考えなしで放たれたシュートのゴール確率って高いと思いますか?
オリンピックの上位国や、NHLの選手がゴールを決めるためにそんな意味のないシュートを打っていますか?
もしそのように、見えてるのであれば何度も何度も彼らの試合の動画を見直してみてください。そんな無駄なシュートは放っていないはずです。もし彼らがそんな無駄なシュートを打っていたら、すぐにチームから降格されてしまいます。
私は、日本のスポーツ、特にアイスホッケーやサッカーのような1点の重みのあるスポーツで、長い間言われ続けている決定力不足の一因に、この『とにかくシュートを打て』の言葉が様々な悪い要因を表しているように感じています。
『とにかくシュートを打て』の何がいけないのか。
『とにかくシュートを打て』のなにがダメなのか。
冒頭で少し話していますが、結論から言うと『考えていない・想像していない』からダメなのです。
そもそもアイスホッケーはテニスやバレーボールのようなスポーツとは違い、同じフィールド内に相手も合わさったスポーツです。
DFも簡単に打たせまいとプレッシャーをかけて来ますし、GKも正確なポジショニングを取られたら簡単には入りません。レベルが上がれば上がるほどシュートが打てるシーンで十分な体勢でいられることはそうそうありません。
その状態で打ったシュートが入る確率はせいぜい1〜2%と言ったところでしょうか。多くの試合が枠内シュートがせいぜい多くて50本というところでしょうから、50本×1~2%で確率的には50本打って約1点です。
1点で試合に勝てますか?
これが、質を高めた・考えて・想像して鍛え上げられた意識の高いシュートだったらどうでしょう。
確率が5%〜10%に上がるだけで、同じ50本の枠内シュートでも2〜5点取れるようになります。
試合に勝てる確率がものすごく上がりませんか?
では、そもそも決まるシュートってどんなシュートなのか考えてみましょう。
決定力のあるシュート
ゴールが決まるシュートは、よく観察してみているとある程度パターン化していますので、まずはこれらを確認してみましょう。
- スロット内からの、コントロールされたスナップショット
- 素早いパスからのワンタイム
- 遠い距離から放たれたシュートをブラインド、もしくはシュートの軌道を少し変える
- リバウンド
- ブレイクアウェイ
これらが主な得点シーンのパターンです。
まず大前提として、これらのシュートシーンを増やすことが大事です。これらのシュート数が増えれば、必然的にゴール数は上がるはずです。しかし、これだけでは足りません。ここに想像力・理解力を加えるだけで、ゴール確率は格段に上がります。
さらに決定力を上げるための考え方・想像力
先に上げたパターンは、皆さんもなんとなく思い浮かぶのではないでしょうか。さらに細かく見ていき、どうすればよりキーパーが取りづらいショットになるのか想像力を働かせられるかがポイントです。1つひとつみていきましょう。
スロットルからのコントロールされたショット
スロットル内からのシュートは一番定番で、皆さんもよく練習でも行うかと思います。その中で、どんなシュートがキーパーが困るかというと、素早くコントロールされたシュートが取りにくいと言われています。ここが大事なのでもう一度言います。
『速さよりも…コントロールです。』
ノーコンで枠を外してしまったり、ゴーリー正面の早いシュートはゴーリーはまったく怖くありません。コントロールは、肩口、サイド、股、こぼれやすい脇を正確に狙います。また素早く正確に放たれたシュートはゴール確率が格段に上がります。最近の主流となっているクイックリリースと呼ばれるシュートです。
後述しますが、ゴーリーが優秀で完全にコースを塞がれた場合は、味方のポジションを脇見でみながら、味方の場所にリバウンドが溢れるようにシュートを打つのも有効です。これを可能にするためにも大事なのはコントロールですね。また、一瞬味方を見たり、DFの股の間を狙ってシュートを打ち相手DFをブラインドに使ったり、一瞬パックを動かし、ゴーリーの重心を少しずらしてからシュートを打つなど、工夫次第でたくさんの方法があります。上手な選手のプレーをよく観察してみましょう。
パスからのワンタイム
2-1もしくは3-2からのパスからのワンタイムシュートやコーナーからのパスに合わせてワンタイムなどですね。
ここで大事なのは『ゴーリーを動かす。』ことです。
アイスホッケーはゴールが小さく、ゴーリーの体が大きいと、簡単にはシュートが入らないように見えますが、ゴーリーを左右に動かすことでゴーリーのポジショニングを崩しゴールスペースを空けることが出来るのです。
パスによるキーパーの揺さぶりには組織力が必要ではありますが、左右に動かされながらセービングというのは非常に難しい技術なので、そう容易には止められないです。強いチームになると個々の動きによるキーパーの移動だけでなく、こういった組織力を使う選択肢が増えることで、キーパーの迷いを生じさせるため、結果としてゴールの数が増えるので試合に勝つことが出来ます。
ワンタイムの典型例はコーナーでキープして、ゆっくりDFが真ん中に寄ってきたとこに素早くパスからの肩口へのワンタイマーなんかはよく決まります。
皆さんもよく練習するであろう、2-1や3-1・3-2からのゴールは練習量の割に決まりませんので(スピードとパス技術がある程度必要なため)そういったチームは、セッティングからの5-5での練習をした方が有効な気がします。いかに、相手の陣地内でのプレーを増やすかが重要ですし、難しい部分ですからね。
シュートの軌道を変える(ディフレクション)/ブラインド
シュートの軌道を変えるのもよく見るゴールシーンですね。タイミングがわかりやすく強いだけのスラップショットは案外止めるのは簡単です。時速160kmとか出れば別ですが…。そう言ったシュートの中でも決められる確率を高めるには、打たれたシュートに少し触れる、もしくはキーパーにブラインドをかけて少しでも困らせるだけで、ゴール確率は格段に変わります。
(↑TOP10のゴールが良い例です。↑)
また、FWがクリーズのすぐ脇に立ち、スラップショットと見せかけ、速い低いショットをFWに目がけて打ちFWが壁役になり方向を変え決めるのも選択肢としてありですね。
ディフレクションも、工夫しましょう。角度を変えるのか、グラインドできたシュートを上げるのか、高めにきたのを下げるのか。昨今のNHLでは高めのショットを打ち、少し触れて下げて決めるのがトレンドですが、技術的に難しく、不用意にスティックを上げてしまうとハイスティックを取られる可能性が高いので、まずは低いシュートの角度を変える・ブラインドあたりから始めると良いでしょう。
シュートを打つ側も、味方がディフレクションを行いやすいようにシュートを打つのも大切です。セット内で普段の練習からコミュニケーションをとり、打ち合わせしておきましょう。
リバウンド
多くのゴールシーンが、リバウンドのこぼれ球に反応してのケースが多いです。『とにかくシュートを打て』と呼ばれる所以も、リバウンドでのゴールが多いため言われていたのではないかと推測できます。仮にそうだとしたら『リバウンドが出るようなシュートを打ちなさい』が正しい表現でしたね。
リバウンドでのゴールがどのように生まれているのかその過程を踏まえていくことがとても大切になります。リバウンドでの決定率を上げるシーンのポイントを見ていきましょう。
リバウンドのポイント
- ポジショニング
- シューターの狙いどころ
- ポジションごとの上がるタイミング
リバウンドでのポイントは大きなところでは上記の3つになるでしょう。ひとつずつ見ていきましょう。
ポジショニング
ポジショニングは文字通りどこに立っているべきかになります。
各々のシュートシーンでリバウンドがこぼれてくる場所が特徴があります。2-1のケースで、味方FWが45度の位置からシュートを放てば、反対の45度付近に速度が速めのリバウンドが来ますので、詰めすぎれば反応できません。ややスピードを落としてスティックを氷につけて素早く反応できるように待ちます。
セッティング後の味方DFからのスラップショットは、GKの手前やGKの脇に出ることが多いので、GKの前、もしくは脇にポジションをとり、シュートの変化を出すことも考えて、スティックはやや上げた状態で待つと対応力が上がります。相手DFはリバウンドを叩かせないようにブロックしてきますので、ここでのバトルも重要です。素早く回り込んだり、ポジションを取ったら倒されないようにパワーポジションをしっかりとりましょう。
いわゆる、ゴールへの嗅覚と呼ばれるもので、天性のセンスを持つ選手もいますが(なんでそこにいるの!?と思われるようなところに走りこんでくるような)これは普段からの観察力でレベルを上げることが可能です。普段の練習から、キーパーのはじき方や、こぼれる場所をよく観察して記憶して、無意識でそこにポジショニングできるレベルまで上げていきましょう。
リバウンドを出すためのシューターの狙いどころ
シューターの狙いどころは、リバウンドをいかに計算して出すかという点です。
例えば2–1のシーンで自分がパックキャリアだとしましょう。 ゴーリーが正確なポジショニングで立ちシュートコースは完全に塞がれている。DFもFWの間にいてパスが通りそうもない状態の時にあなたはどこにシュートを狙いますか?
いろんな選択肢はあるかと思いますが、リバウンドを出させて味方FWに決めれるようにシュートを打つとしたらファーサイドのゴーリーの足元を狙うというのが有効です。
逆サイドに走りこんでるFWがリバウンドが叩ける場所にパックがこぼれるようにシュートを打つというイメージです。ゴーリーを使って壁パスを出す感じです。うまくいくと反対側のFWにパックが溢れ、ゴーリーもバタフライなどをしていればすぐには動けませんのでバックドア側から容易にゴールを決めることができます。
ニアサイドの足元や肩口のシュートの場合このようなリバウンドは出にくいです。ニアを狙う際は自分が決めきる場合のみ選択します。
どこに味方が走りこんできていて、どこにリバウンドが出ると良いか、そのためにはどこにシュートを打つことが正解なのかをイメージしてシュートを打つことがリバウンドでゴールを奪うのに大事になります。
シュートはどこを狙うのが正解か
続いてゴールが決まりやすい、シュートの狙う場所についてです。一般的にゴールが決まりやすい箇所は5ホールと呼ばれ、両肩口、両脇、股下のことを呼びます。こんな練習用のシート見たことありと思いますが、これが5ホールです。
間違いではないですが、よりゴールを決めたいと考えるのであれば、さらに掘り下げてみていきましょう。
真・5ホール
ゴーリーも5ホールは知っているので、ポジショニングなどでゴールを決めさせまいとしてくるわけです。正確にポジショニングを取られると5ホールといえど、なかなか決められません。そこで一般的な5ホールとは別により実践的な5ホール、両耳脇・両脇(ゴーリーの脇の間)・股下についてご紹介します。
両耳脇
肩口のより内側、ゴーリーのヘルメットの両脇を狙います。
人間ですので、顔の付近に来たパックには顔をそらしてしまうということと、肩口よりも顔の脇の方が反応しにくい(手が届きにくい)というのが理由です。
両脇(腕と体幹の間)
ゴーリーの脇(腕と体幹の間)はパッとみた感じスペースが無いように見えるのですが、ユニフォームのたるみなどでそう見えるだけで実は少しスペースがあるのです。しっかりと反応されるとブロックされますが、後方に溢れやすくぽろっと後ろに溢れてゴールが決まりやすい場所です。ブロックされたとしても、必ずゴーリーの前にリバウンドが出るのでリバウンドをコントロールしやすいというメリットもあります。
股下
股下は一般的な5ホール同様に、ゴーリーの嫌がるシュートコースのひとつです。
股下は、一見そんなに入らないように思えますが、正確なバタフライやスティックコントロールを必要とします。少しでもずれてしまうと、ゴールや不用意なこぼれ球を出してしまいますし、すぐに抑えることができないので、ゴーリーにプレッシャーのかかるシュートとなります。
NHLのゴールデータをみると、意外にも股下付近や低いシュートのゴール数が多いことがデータからもわかります。
まとめ
過去にコーチによく言われた『とにかくシュートを打て』という言葉からスタートした『シュートの決定率をあげる』についての記事ですがいかがでしたでしょうか。
結論は【質の高いシュートは、とにかく数を打て】が正しい表現です。
あなたが子供たちを指導する立場の人やアイスホッケーをやっている子供の親御さんであればぜひこのように言葉をかけ、説明をしてあげてください。
アイスホッケーは他のフィールド競技に比べてシュート数の多いスポーツです。基本的にはゴーリーが高い確率でセーブするので、80〜95%は止められます。だからといって、ただただ闇雲にシュートを打つことがこのゲーム性の本質ではありません。
質の高いシュートを打っていても、このセーブ率になるわけですから、考えられていない質の低いシュートはゴーリーが初心者でない限りほぼ入りません。
ぜひ今日の練習から、質の高い・考えた・イマジネーションのあるシュートを心がけてみてください。
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